「うちの物件もペット可にしたほうがいいのかな?」「でも、トラブルが心配…」そんな悩みをお持ちのオーナーさんは多いのではないでしょうか?
近年、ペットと暮らしたいという入居者ニーズが高まる中、ペット可物件は新たな収益機会となる一方で、様々な法的リスクも伴います。そこで知っておきたいのが、トラブルを未然に防ぐための法的知識です。
2025年4月11日に開催された(株)生きものと暮らす主催「ペット可物件のトラブル実例と契約書に盛り込むべき項目」セミナーでは、不動産特化型弁護士の西明優貴先生を講師に迎え、オーナーさんが知っておくべき法的知識と実務のポイントについてわかりやすく解説いただきました。
このレポートでは、セミナーの重要ポイントをまとめてご紹介します。

ペット可賃貸の法律上の基本事項
そもそも、ペット飼育を禁止する法律はあるのか?
「実は、賃貸借物件でのペット飼育を禁じる法律は特にないんです」と西明先生。
これは意外と知られていない事実かもしれません。
ただし、民法上の「用法遵守義務」と「契約自由の原則」という考え方があり、賃貸借契約や特約で自由にルールを設けることができるんです。つまり、オーナーさんと入居者さんの約束事次第というわけです。
「契約書に物件の正しい使い方をきちんと定めておいて、それに違反した場合に追及できる状態になっているかを確認しておくことが重要です」と西明先生は強調されていました。
この「確認」がとっても大事なポイントなんですね。
お金のこと、きちんと整理しておこう
ペットOKにすると気になるのがお金の問題だと思います。
以下の3つのポイントをしっかり押さえておくことが重要だそうです。
- 敷金と礼金の違い:まず基本のおさらいです。敷金は「借主さんが債務を担保するためにオーナーさんに預ける保証金」、礼金は「契約締結のお礼として支払うもの」と明確に区別されています。
- ペット用追加敷金:「ペットによる傷や汚れに備えて追加敷金をいただくなら、契約書にきちんと明記しておきましょう」と西明先生。曖昧にしておくと、後々トラブルの元になりかねません。
- 敷金償却特約の落とし穴:「実際の損失の有無に関わらず、敷金は100%返さない」なんて強気な特約は、消費者契約法違反になる可能性があるので要注意! バランスの取れた特約設定がカギです。

実際どんなトラブルが起きるの?対応策は?
こんなトラブルに要注意!
「ペットトラブルって具体的にどんなものがあるのかしら?」と思われる方も多いはず。
代表的なトラブルは次の4つのタイプに分けられるそうです:
- 騒音トラブル:ワンちゃんの足音やバルコニーでの鳴き声、夜中の引っ掻き音など
- 臭いトラブル:体臭やトイレの臭い、マーキングなど
- 物件の損傷:壁紙の引っ掻き傷、柱の噛み跡、粗相による床の染みなど
- 住民間トラブル:「隣の犬が怖い」「アレルギーが出た」などの入居者間の問題
これらに対する事前の対策として、契約時に「防音マットの設置義務」「定期的なしつけ教室への参加」「爪の定期的な手入れ」などを契約書や細則に盛り込んでおくと安心です。
ペットの事故、賠償額はビックリするほど高額になることも!
「民法718条の動物占有者の責任」という言葉を聞いたことがありますか? ペットが他者に危害を加えた場合、飼い主さんの責任が問われる可能性が非常に高いそうです。
驚きの判例として、横浜地裁平成13年の事例が紹介されました。なんと、飼い犬が吠えただけで高齢者が驚いて転倒・骨折し、約438万円の賠償が命じられたそうです。
「日本ではペットによって発生した事故についての責任が実はちょっと重くなってます」と西明先生。ペット可物件を運営する際は、この点をしっかり入居者さんにも理解してもらうことが重要ですね。
困った入居者さん…退去してもらえるの?
「ペット禁止」なのに飼っている場合
「ペット禁止なのに黙って飼ってる!」こんなケース、実はよくあるんです。契約違反なので即退去…と思いきや、そう簡単にはいかないこともあるようです。西明先生によると、以下のポイントが判断材料になるそうです:
- 違反の程度は?:「小さなハムスターを1匹飼ってる程度なら、裁判では軽微な違反として退去を命じられないケースもあります」と西明先生。実は動物の種類や大きさもポイントなんですね。
- 実害なくても退去できる?:東京地裁平成22年の判例では、フェネックギツネという小型の狐を飼っていた事例で、実害がなくても契約解除が認められたケースも紹介されました。ケースバイケースなんですね。
- 注意しても無視する場合:「再三の注意や改善要求に応じない場合は、信頼関係破壊が認められて契約解除が可能になることが多いです」とのこと。つまり、対応の悪さも判断材料になるんですね!
「ペット可」だけど度を超えている場合
ペット可物件でも「常識の範囲を超えた飼い方」をしている場合は退去してもらえることもあります。西明先生が紹介した驚きの裁判例には「部屋内に猫10匹を放し飼いにして野良猫十数匹にエサを与えていた事例」や「敷地内に鳩舎を設置し約100羽の鳩を飼育していた事例」など、ちょっと想像を超えるものも! こういった「用法遵守義務違反」のケースでは契約解除が認められる傾向にあるようです。

これだけは押さえておきたい!契約書の重要ポイント4つ
トラブルを防ぐ最大の武器は、しっかりとした契約書です。西明先生が特に強調されていたのが次の4つのポイント。これだけは必ず押さえておきましょう!
1. ペット飼育申請書は必須アイテム
「まずは入居者にペット飼育申請書の提出を依頼することから始めましょう。そこには飼育するペットの品種、大きさ、将来的な成長予測、そして写真なども含めると良いですね。とにかく証拠をしっかり集めておくことで、万が一のトラブル時に有利になります」と西明先生はアドバイスされていました。
Google Formを使えば無料でアンケートや写真の収集も容易にできるそう。
これはすぐに使えるテクニックですね!
2. 細かいルールは「ペット飼育細則」でカバー
「賃貸借契約書の雛形を持ってらっしゃる方が多いと思いますが、例えば、借主は、別紙記載のペット飼育細則に従う義務をっていうの1文だけ追加して、あとは別紙ペット飼育細則をつけるっていうやり方もあるんです」というアドバイスも。
細則には「ペットの移動方法」「清掃責任」「バルコニー利用ルール」「トイレ設置場所」「防音対策」など、細かいルールを盛り込むと安心です。
3. 原状回復のルールは超具体的に!
退去時のトラブルを防ぐために、原状回復の範囲をはっきりさせておくことが重要だそうです。
国土交通省のガイドラインでも「ペットによるキズ・臭いは賃借人負担」と明記されていますが、さらに具体的に「猫による引っ掻き傷や犬による柱の噛み付き跡などの修繕費用は入居者負担」などと契約書に明記しておくと、後々のトラブルを防げます。
4. トラブル対応は段階を踏んで
もしトラブルが起きたら、いきなり強硬手段に出るのではなく、「注意→命令(改善・飼育中止)→退去命令」という段階を踏むことが大切だと西明先生は強調されていました。
また、「ペットを隠れて飼っているケースでは証拠収集が難しい」という現実的な問題もあるそうです。そんなとき、どう証拠を集めるかも事前に考えておくといいかもしれませんね!
まとめ 〜未然にトラブルを防ぐ契約書作りが重要!~
ペット可物件は需要も高く、収益アップが期待できる一方で、様々なリスクがあることが分かりました。西明先生は「ビジネスをするにあたっては事前の備えが重要」と強調されています。
結局のところ、トラブル防止の鍵は「事前の準備」にあり! 契約書をしっかり整備し、ペット飼育申請書や細則を作成して、起こりうるトラブルに備えておくことが大切なんですね。
この記事では紹介しきれなかった内容もたくさんありますが、ペット可物件を運営する際の基本的な法的知識を知ることができたのではないでしょうか。
これを機に、ペット可物件のビジネス展開の参考にしていただければ嬉しいです。
[編集後記]
今回のセミナーは、法律の専門家ならではの具体的なアドバイスが満載でした。参加できなかった方も、ぜひ次回のイベントにご参加ください。様々な視点からペットと住まいの関係を考える機会を今後も提供してまいります。
[お知らせ]
「生きものと暮らす学」では、ペットと不動産、暮らしにまつわるイベントを定期的に開催しています。オーナー様、不動産会社様、ペット関連事業者様など、様々な立場から「人と動物の共生」について考える場を提供しています。
次回イベントの詳細は、Peatixページや公式SNSで告知予定です。
ぜひフォローして、最新情報をチェックしてくださいね!
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森下総合法律事務所 代表
不動産特化弁護士 西明優貴 先生
司法試験に上位4%の成績で一発合格した後、不動産に特化。
「3時間以内に回答する」をモットーに1日最大5件もの不動産の法律相談を受ける。
これら法律相談を100事例に厳選したセミナーは開催のたびに大好評。
過去の相談・依頼割合は、法人が60%、投資家・大家・地主が30%。
売買、仲介、賃貸、管理だけでなく借地、火災・漏水、破産管財もこなすなど守備範囲の広さが他の弁護士との違い。
顧客からの声は「我が社が依頼する弁護士で、今一番仕事が早いのは西明」「不動産に注力する弁護士と出会えなかった、もっと早く出会っていれば結果も変わっていた」など。
その他の実績として、フジテレビ「ノンストップ!」、テレビ東京「カンブリア宮殿」への出演のほか、東京地裁破産管財人選任など
URL:https://morishita-law-office.com/